愛色メルトWeb

【サンプル(文章)】

　だから今は没頭する。
　エレンを抱くことを。
　どこか抵抗を見せるエレンを押さえ込むようにして、リヴァイは身体の下にエレンを組み敷く。
「こ、んな、イキナリ……」
　星が瞬く空の下、戸惑ったように瞳が揺れている。場所は屋上。屋外。普段とはあまりに違いすぎるが構わない。
「悪いな……今までさんざ我慢させられた分だ」
「我慢って」
「同じ部屋にいてヤれないまま何日我慢させられたと思っている？」
「そ、れは……」
　適当に覚悟してろ、そうリヴァイは低く呟く。上目遣いに見上げてくるエレンの目はすでに涙目だ。そんなエレンを見下ろすのは言い知れない高揚をリヴァイにもたらした。エレンを見ていると、もっともっと、と身体が騒ぐ。もっともっと、虐めたい。愛したい。
「ん…ンン……っ！」
　キスの合間にエレンの吐息が荒く漏れる。
　ぴたりと閉じた唇を割って、口腔を舐め回すように舌を差し入れる。いささか強引にすすめたが、健気にもエレンは必死で応えていた。抗っても無駄だということは、意識よりも身体の方がよく承知しているのだろう。エレンの身体だけならば、既にリヴァイに躾られていたからだ。
　詰めた息を吐き出すようにして、ようやく唇を離す。しかし間髪入れずにまた唇を落としてやる。強引なキスに、エレンの身体からは力が抜けていくようだった。
　押さえ込んだ身体の下から、エレンが腕だけを回してくる。首筋に腕が絡む。応えるようにしがみつかせて、奪うように唇を貪る。少しばかり硬質なエレンの髪に指先を絡め、何度も何度もかきむしるように優しく撫でた。
「へい…ちょ…」
　上目遣いに見上げてくるその様が愛しくて、リヴァイはなおもエレンに覆いかぶさるように顔を近づけた。舌を差し出し、お互いに舌先だけを触れ合わせるようにぴちゃぴちゃと絡ませる。
　伏せ目がちなエレンの頬は、星明かりの下でもそれと分かるほどに桜色に蒸気していた。同じく伏せ目がちに舌を絡ませながらその様子を見下ろすリヴァイは、エレンの扇情的な様子を前にしてますます凶悪な気持ちが加速するのを自覚する。
　リヴァイ自身でもどうしようも無いほどの劣情が、自分を掴んで離さなくなる。自分のこの感情に、際限は無いように思えた。どこまでが限界か、その前に限界はあるのか、半ば試したくなるような気持ちに駆られる。
「ン…は…ぁ…あ…」
　リヴァイの左手は、艶やかな弾力を持つエレンの肌を這う。掌をひたりと這わせるように胸を覆うと、親指の腹で真ん中の突起を嬲るように押し潰す。
「あっ……へ…ちょ…っ…」
　エレンの身体がぴくんと跳ねる。銀色の光を帯びる糸を引きながら絡ませていた舌先を離すと、リヴァイの舌はエレンの左の胸へと這わされる。
「あっ…あっ…あっ…！」
　短く切れるような息を何度も吐く。エレンはリヴァイの頭に腕を回して、与えられる刺激に震え耐えているようだった。リヴァイの動きを遮るかのように強く強く腕を回してくる。しかし、リヴァイにしてみれば効果は無い。
　リヴァイは舌先を軽く尖らせて、つんと自己主張を始めたその赤く小さな果実を押し潰すように突付く。
「んんんっ……！　だ、め…でっす…！」
　震える声が耳ざわりよく響く。たまらなかった。エレンは目を固く閉じている。その顔を見つめながら、リヴァイは愛撫する手を止めない。押し潰せば潰すほど、面白いほどにそれは丸く固く存在を顕わにしていく。
「あッ…あッ……へい…ちょ…ぅ……」
　エレンの声は鼻がかったような甘ったるい鳴き声になっていく。その声を聴きながら、リヴァイが小粒なその先端を吸うように唇をすぼめれば、エレンの喘ぎはどんどん激しく、そして甘く響く。
「気持ちいいのか」
「は、い」
「気持ちいいなら、素直に、言え」
「は……い」
　エレンはあえぐように呟く。きもちいです、と。
　両胸の赤い果実に交互に口付けた。男とは思えないほどの白くて華奢なエレンの胸。どこか弾力のある肌触りを楽しみながら、口の中では赤く腫れあがり始めている乳首をちゅるちゅると転がしてその小さな粒の味を楽しむ。
　右手をそろりとエレンの下腹部に這わせ、硬く閉じられた下肢へと辿り着く。
「んっ……んン…っ…」
　エレンがいやいやするように軽く身を捩る。
「……いやらしいな」
　リヴァイがエレンの耳のすぐ傍で低く囁く。
「もうこんなに硬ぇ……どうしようもねぇな、お前」
　服の下に手を突っ込む。下肢の上にそそりたつエレンのそれを、直接触って上からゆっくりとしごきながら、リヴァイはエレンを責めるような口調で、しかしどこか優しく言った。エレンの身体はその声に焼き焦がれたようにぶると小刻みに震え始めた。
「……あ、ぁ……っ！　へいっ…ちょ…っ…」
　やめて、という声がひとつ。やめるわけがない。
　リヴァイは容赦なくエレンの足を押し広げる。足から服を抜いて、容赦なく裸にした。
「ま、待って―」
　待ってください、半ば抵抗じみた言葉を唇に乗せて、エレンが身を捩る。しかし、リヴァイは構わない。
　エレンの足首をむんずと掴み、左右に割るようにして横に広げる。
「やっ……！」
　今度ははっきりと抵抗をみせる。エレンは逃れるように腰を捩った。しかしリヴァイには通じない。押し広げて、外気に晒したその場所に、リヴァイは埋めるように顔を近づける。
「や…ぁ…っ」
　リヴァイが何をしようとしているのか悟って、エレンはおののいた。
「き、き、きたないです、そこっ……！」
「おとなしく、してろ」
　唇を付ける瞬間、リヴァイの声が低く響く。
「汚くなんか、ねぇから」
「あ……？　……や、ぁ……はぁ……は、はぁ…」
　エレンの声はすぐに艶を帯び始めた。リヴァイはエレンの性器にゆっくりと唇を押し当てる。赤く屹立し控えめに膨らんだ先端を丸くえぐるように唇と舌を使って舐めてやる。舌の腹を使ってそこを覆っていた薄皮をぺろりと剥くと、剥き出しの性器をちゅうッと吸った。
「あっ…やッ…ぁんッ！」
　エレンの身体はびくりと跳ね、鼻にかかったような甘ったるい吐息を際限なく漏らす。
（もっと聞きてぇ）
　リヴァイはごくりと喉を鳴らした。
　身体の関係を持つのはもちろん初めてではない。なのに、なぜかまるで初めてのようにひどく興奮していた。
　いや違う。初めてだ―エレンに好きと言ったのは、初めてなのだ。そのせいかもしれない。
　もっと聞きたい、とばかりに、唇と舌を使って、執拗にそこを嬲り始める。
「あっあっあっ……！」
耐えられない、とばかりにエレンは逃れようと腰を動かすが、その動きは却ってリヴァイの卑猥な舌の動きを助長し、そしてリヴァイ自身をも煽る。
「自分で腰動かして、誘ってるのか」
「や、ちが、い、ます……！」
「どこが？」
　ぬちゅりと舌を動かして、なぶるようにもうひとつ舐める。
「あっ…っあ…！」
　悲鳴じみた声。いやらしい声だ。エレンは知らないのだろう。自分がどれだけリヴァイを煽っているのか、知らない。
　エレンは泣き喘ぎながら指先で石造りの床を掻く。なんとか刺激から逃れる方法はないかと身体を動かすけれども、リヴァイに両の足をがっちりと掴まれてそれも叶わないようだった。
　リヴァイはしっかりとエレンの両足を抱え込むと、そそりたつ先端を唇でねっとりと包む。ちゅるちゅると丹念に舐めあげたかと思うと、嬲るように上唇と下唇で挟んでくちゅくちゅとしゃぶるようにそこを吸う。
　ひとしきり唇で愛撫を続けたあと、今度は何かを待ち望むように口をひくつかせたエレンの蕾を縁取るように丸く舌でなぞった。
「やっ……ぁ……ああっ……！」
　エレンの嬌声は一層熱を帯びて夜の屋上に響き渡った。
　リヴァイはひっきりなしに濡れてやまないそこに、ゆっくりと舌を差し入れる。エレンの身体がビクンと跳ねた。
「や……ソコ、も、きたな…い…で、す…」
「……汚くない」
　エレンの言葉をなるべく優しい口調で打ち消して、入り口の内側のほど近いところをなぞるように舌でつつく。舌先を尖らせて、侵入可能なところまで舌を差し入れた。
　エレンの両の足は高く持ち上げられ、秘部はリヴァイからさらによく見えるように淫らに晒される。エレンはわずかに暴れるように足をばたつかせたが、リヴァイは構わなかった。
　エレンの太腿の後ろに手を添えて、足を下ろそうと試みるエレンの動きを阻んだ。舌先を使ってエレンの中を舌先で犯すことも忘れない。
　ぷちゅぷちゅと果実をつぶすような音が漏れ始めてくる。ほどよくほぐれ熟してきたのだ。
「やぁ……へい、ちょ、…やめ…やめ、て……」
　恥ずかしいです、とエレンは悲鳴をあげる。こんなに大きく足を開かされて、見せつけられるように舐められたことはないだろう。しかし、言葉とは裏腹にエレンの身体はどんどん濡れ、リヴァイの舌の動きに答えるようにそこは淫らにひくつく。
　おもむろにリヴァイは顔をはなすと、今度はエレンの腰を後ろから抱えるような形で膝を立たせる。
「前。…手、つけ」
「……兵、長…」
「床が堅くて背中が痛いだろう？　こっちのほうがまだマシだ」
「でも、」
　恥ずかしいです、とエレンは新しい涙を滲ませた。
「初めてじゃないのに、どうしてこんな……」
　エレンは言いかけて、呆然としたように言葉を失う。エレンが言いたいことは言葉にしてもらわなくともわかっていた。リヴァイも同じ気持ちだったからだ。
「つべこべ言わずに、」
　リヴァイはすこしばかり強引に身体を寄せる。
「腰、ちゃんとあげろ」
　床につかせた膝を後ろから無理矢理押し広げた。
「あ……んン…ん」
　エレンが身を震わせる。露になった秘部は、先ほどリヴァイが戯れに施した刺激に負けて赤く赤く濡れている。
「すげぇ……ぐちょぐちょ…だぞ…」
　リヴァイは後ろから手を差し入れて、そそり立つエレンの性器を包むように握りしめた。リヴァイの手中でエレンの薄い陰毛がさわさわと踊る。ぴくぴくとひくついているエレンの性器を、リヴァイは掌で包みながら、ゆっくりと前後にしごき始める。
「ん…アぁ…っ……」
　やめて、とエレンは逃れようと腰を引くが、腹の辺りにリヴァイの腕を回されていて逃げることはかなわない。エレンをおさえつけながら、リヴァイは己の服に手をかける。服は全部脱がない。面倒だった。早く欲しくてたまらなかった。
「気持ちいいなら、」
「あっ……あああっ……」
「気持ちいいって、言え」
　先ほどから痛いほどにエレンの中に入りたがっている自分自身をさらけ出すと、押し広げたエレンのそこにあてがう。
「―っあッ……！」
　ぬるぬるになっているエレンの中は、しかしどこか反抗的だった。キスするように入り口にぴたりとあてがうと、半ば無理やり押しこむ。ぐちゅりとひとつ音が弾けて、エレンはリヴァイを飲み込んでいく。
「やっあっ…あああ……」
　さらけさせたエレンの尻がぷるぷると震えた。両手で鷲掴みにして、一気に嵌めこむ。ずんと突いてやると、エレンは悲鳴じみた嬌声を漏らした。
「ぁあっ…ああ……っ！」
「気持ち、いいか？」
　聞きながらもうひとつ腰を打ち付ける。中は温かいのにぬるぬると濡れていてびちょびちょだ。吸い付くようなからみつくような感触に包まれて、リヴァイは一瞬めまいすらした。きもちいです、という声が悲鳴のように張りあがる。
「きもちいか」
「は、っい」
「どのへんだ？」
　言いながら腰をぐちゅりとかき混ぜるようにひねる。
「ここ？　それとも、」
　だらだらと愛液が絡みついて、リヴァイとエレンの足を濡らしていく。腰を回しながら探るようにエレンの中をかきまぜていく。
「……ここか？」
　声にならない声があがる。そう、もっと鳴けばいい―リヴァイは腰を前後に動かしていく。最初はゆっくりだ。頃合いを見計らって、腰の速度をゆるゆると速めていく。
「あっあっあっあっ……！」
　リヴァイの動きに合わせるように、エレンの声も大きくなっていく。ぱんぱんと乾いた音が響く。真夜中の空の下、肉の打ち合う音がみだらに反響する。

【サンプル(文章)】

　ヤッホー！！

　 　壁の上で叫ぶ男がひとりいる。アルミン・アルレルトは眩しげな顔をして空を仰いだ。
　生まれたての太陽の光は白い。清浄な輝きで世界を照らし、一日の到来を祝福しているようだ。しかし、巨人が跋扈するこの世界では、朝の到来は絶望の到来を意味していた。巨人は日の光が活動源だということはよく知られていたからだ。
　壁の上でエレン・イェーガーはまた叫ぶ。
　ヤッホー！　ヤッホー！　ヤッホー！　
　ここ二、三年ほどの間、これは日常茶飯事な光景となっていた。エレンは毎日、毎朝、壁の上でヤッホーと叫ぶ。
「おはよう、エレン」
　立体機動装置を使って壁上に登り、叫び続けているエレンの隣に立つ。二人の足下には陰が二つ斜めに伸びていた。
「おう、おはよ、アルミン」
　エレンはにかりと笑う。その表情は明るくて―明るすぎていて、アルミンの胸内はずしりと軋む。
（今日も、泣かない）
　エレンが泣いたところを、この二年見たことがなかった。エレンは幼い頃から感情の起伏が激しい子供だったとアルミンは思っていた。そのエレンが、この二年、一度も泣かない。怒ることはあっても静かに深く怒り、笑うことがあっても控えめでいてしかし見ていてそうとわかるほどには明るく笑う。
　ただ泣かない。泣く、悲しむ―そういった感情だけをわざと欠落したような乾いた顔で、笑って怒る。
「いい朝だね」
「おう、そうだな―みろ、もう奴ら、歩いてやがる」
「そうだね。三〇メートル級位かな？」
「でけぇなぁ。壁から逃げ出したやつかな」
「かもしれない」
　五〇メートル超の壁の上で、のんびりと会話する。みおろす世界は、かつて二年ほど前まで人類の領域だったはずの場所―ウォール・ローゼ内である。
　エレンとアルミンが立つ壁は、人類最後の砦であった。人口は二年ほど前よりも六割減少し、領土も七〇パーセントを失ってしまった。
　もう、この世界にはあとがないのだ。
「―次は、いつ行くつもり？」
　どこへ、とはアルミンは訊かない。訊かなくても、二人の間では暗黙の了解のように知れている。
「さぁなぁ。いつ行けるかなぁ」
　エレンはのんびり答えた。
「仕事、ごたついてんだよな」
「分隊長って意外に忙しいんだ？」
「さぁどうだろ？　分隊長っつても、名ばかりで、ただの雑用だよ。上の連中、どんどん死んでってるからな。雑用、雑用」
「そんなこと、ないだろ」
「あるよ」
　エレンは小さく笑う。その眼差しの先は、世界の果てを夢みている。アルミンは知っていた。世界には果てがある。必ずあるのだ。
　壁の外は広大だ。だが最果ての地は必ずあると信じていた。そこに至るまでの道には、山があり河があり森があり海があるだろう。火山も氷山もあるだろう。
　まだ見たことのない世界を、エレンは夢見ている。夢見ながら、毎朝叫ぶのだ。
　こんにちはー！　じゃ言いにくい。じゃあ「おはよう」はどうだろう。おはよう、おはよう、おはよう、……って、おはようじゃ、でっけぇ声出しにくいんだよな、そう言って、エレンは「ヤッホー」と叫ぶことにしたという。
「―で、いつ行くの」
　アルミンは話を戻した。エレンは訝るように眉根を軽く寄せた。
「しつこいなぁ、なんだ急に」
「なんでだろ。急に、気になってさ」
　エレンがいなくなる夢をみたんだ―そう言い掛けて、アルミンは喉元まででそれを押し止めた。言霊なんて信じているわけではないが、なんとなく、口にしたら現実になってしまいそうな気がしたからだ。突然いなくなる、なんてことは決してありえない非現実的なものではなく、この戦況ではよくある話だった。
「わっかんねぇよ」
　エレンは同じ回答を繰り返した。朝日を浴びた背は、この二年の間に少し伸びた。大空に手のひらを仰向かせて、うーんと伸びをする。
「でも、近い内に行きたいかな」
「そう」
「だけど、こんな状況じゃ、なかなか出られないよなぁ」
　エレンは苦い笑いを壁の下へ落とす。その先にいるのは、うようよとうごめいている巨人たちだ。
　朝になり、活動源を手に入れた彼らは、壁に群がっている。第二の壁を破り、さんざん人間を食い尽くしたはずなのに、彼らの食欲には際限がないようだった。この壁の内側にも生き残りの人間がいると知っているのだ。
　アルミンもまたため息を落とした。
　絶望的な状況が目の前に広がっている。
　たったひとつ残った最後の壁、ウォール・シーナもいつ破られるかわからない状況となっていた。それほどに巨人は増え、攻撃性と攻撃力を増している。
　アルミンはちらりと隣に立つエレンに視線を走らせる。隣の男もまた、絶望を背負う者だった。笑いながら、毎朝絶望を背負っているのだ。
（もう、行くのはやめなよ）
　思いは幾度となくせりあがり、日の目をみることなくアルミンの胸内に沈殿する。エレンはあきらめていなかった。この絶望的な状況において、ただひとり、希望を信じていた。
　アルミンの鋭い分析力は、たったひとつの答えをはじき出しているというのに―人類は、あと数日の内に壁を破られ、滅亡する、と。
　それなのに、エレンはひとり、絶望を信じていなかった。毎朝、絶望にうちのめされながら、それでも笑っていた。
「少なくとも今日は無理だ」
　エレンはからりと乾いた声で言った。
「今日は、王様に呼ばれているからな」
「……そうか」
「安心したか？」
「え」
「安心、したか？」
　エレンがアルミンの顔をのぞき込んでいる。その顔にはやはり笑顔が張り付いていた。
「……どうだろうね」
　アルミンは素直に頷かない。安堵半分、不安半分といったところだった。王に呼ばれている、そう言われて、新しい不安を飲み込んでいた。
「しっかりしろよ」
　エレンは笑ってぽんぽんとアルミンの背中をたたいた。
「―お前も昇進するぞ、たぶんな」
「……うれしくないな」
「同感だ」
　からからと笑って、エレンは壁を降りる。慣れた所作で立体機動装置を操る。壁を伝い降りる見慣れたその影をアルミンはぼんやりと見送った。
　毎朝、ヤッホーと叫ぶエレンをみるたびに、後悔に襲われている。
（ねぇエレン）
　アルミンはきらきらと輝く朝日の下で、懺悔するようにひとりごちた。
（今度ばっかりは、無理だよ）
　毎朝いくら叫ぼうと、いくら探しにいこうと、エレンが欲しがっているものは決して還らない。アルミンは知っていた。この世界は残酷だということを。
（どんなにエレンが信じていても―世界には裏切られているんだから）
　アルミンは何度となく言い掛けては飲み込んでいる言葉を、ひとり胸内だけで繰り返した。
　行くのはやめてほしかった。いつ死ぬかわからない。だから―あのひとを探しに行くのは、もうやめてほしかった。もうみんな知っているんだ。
　ねぇエレン―リヴァイ兵士長は、死んだんだよ。

【サンプル(文章)】

「ああっ……あっ…あああっ……」
「いいぞ……―イけ」
　低く落ちるリヴァイの声。耳元をくすぐるように響く。リヴァイはひどく優しい声を出すことがあった。たとえばこういうエレンに余裕がないときに。
（反則……です―）
　囁かれるだけでじっとりと濡れてしまうはしたない身体にエレンは失望する。それを知ってか知らずか、リヴァイはれろりと舌を伸ばして、エレンの耳たぶをねっとりと舐めた。
「ひゃっ……ぁああ…あん……っ！」
　足の先から頭のてっぺんまでかけて奔るしびれるような感触。逃れようと身体をもがくが叶わない。リヴァイはエレンの身体をがっちりと引き寄せて、耳たぶを甘噛みする。甘噛みに時折まざるリヴァイのぬるい吐息。エレンは頬を真っ赤にしながら、すべてを甘んじて受け入れることしか出来ない。
　おもむろに、下の口を蹂躙していたリヴァイの指が止まり、間を置くことなくぐちゅりと引き抜かれた。その手は真っ直ぐに次のねらいを定める。エレンの足の間で揺れるこぶりの先端に、リヴァイの指先が絡んだ。
（ちょ）
　エレンが目を丸くするより先に、リヴァイがそれを優しく手で包む。
「ん…っあっああ、あああっ……！」
　なんの前触れもなく再び触られて、それまで焦らされ続けた身体が悲鳴をあげるようにびくびくと震えた。手でコスコスとしごかれる。馴れた手つき。大人の手だ。扱い馴れしすぎた仕草だ―そんな事実に複雑な思いを抱く。が、抱いた端から快感の方に競り負けて、エレンはみだらに声を漏らした。
「あっ、あっ、あっ、ああっ……ああぁああっ」　もっ無理です―言うより早く、リヴァイがまたも囁いてくる。
「ほら……―イけよ」
「んんんんっ……！！」
　ごめんなさい、言い掛けた言葉は音にならなかった。腰をしならせ、くんっと浮かす。リヴァイの手が汚れてしまう、わかっているのに止められない。

「……申し訳、ありません」
　余韻にひたる間もなく、エレンは慌てて身体を起こした。やっぱりリヴァイの手を汚してしまった。なにか拭くものはないか。うろたえたエレンを横目に、リヴァイは己のてのひらをおもむろに口に含む。
「！？」
　エレンは両目を皿のように丸く見開いた。目の前の光景が信じられなかった。あの綺麗好きなはずのリヴァイが、自分のものをぺろりと舐めてみせたのだ。
「や―」
　やめてください―言おうとして、リヴァイに睨まれる。エレンは思わず目をそらした。恥ずかしくてどうにかなりそうだった。
「―申し訳ありません」
　気がついたら謝罪が口について出る。
「―なぜ謝る」
　問われて、エレンは口ごもる。
「それは―」
　答えを待たずに、リヴァイがエレンの身体を押し倒す。ギッ、とベッドがひとつ軋んだ。
「―オレの……汚いですから」
「悪いと思うなら―満足させてみろ」
　リヴァイは言いながら服を脱ぎ始めている。シャツの下から出てくるリヴァイの筋肉に視線をひとつ走らせてから、またもエレンは目をそらせた。
　恥ずかしい。それでも、いつも教えられている通りにする。軽く折り曲げた足を開脚する。少し腰を浮かせて見せつけるようにして、ねだる。
「―いれて、ください」

【サンプル(文章)】

　地下室に行きます―そう告げた彼の顔はひどく晴れやかだった。互いの身体に蒸せるようにまとわりつくのは死臭だ。数え切れないほどの死の上に立っていた。形容するならばこれは絶望。だが、絶望の最果てで、一五歳の少年が見せたのは笑顔だった―それも、涙混じりの。少年は、泣き虫だった。
　それでも笑顔をたたえるには理由がある。他ならぬリヴァイを前にして彼は簡単には泣けなかったのだ。ガキの涙ほど鬱陶しいものはない―そう言われていたから。
　星が瞬いていた。エレンとリヴァイは並んで座っていた。壁上に腰掛けたエレンは所在なげにぷらぷらと足をばたつかせた。その足下に広がるのは五〇メートル高の景色だ。ここまでたどりつくのに払った犠牲は数知れない。そしてついに奪還したウォール・マリアの壁上で、首が痛くなるほど星空を見つめた後、エレンは告げた。
「もしも―」
　リヴァイはちらりとエレンの横顔を横目にみる。エレンは空を見上げたままだった。ぷらぷらと踊らせていた足はいつの間にか鎮まっている。生真面目すぎる横顔があった。
「―もしも、無事に地下室から戻ることが出来たら……」
　エレンはゆっくりと視線を走らせる。無数に瞬く星から、傍らの唯一無二の存在へと。すべらせた視線の先に、リヴァイがいる。
「―兵長」
　ひゅ、と喉が鳴る。告げるのには勇気が必要だった。言いたかった。だが怖かった。わずかに瞳を歪ませたのは、焦げるほどに脈打つ己の心臓に競り負けそうになっていたからだ。一兵卒として心臓を捧げると誓ったはずなのに、この御しがたい鼓動は、やはりまだエレンの物であり、エレンの物であるくせにエレン自身を痛く苛む。焦げた鼓動は喉奥すら焼き干からびさせる。二の句が告げないまま三秒ほどの時間が経った。
「―遅い」
　先に口を開いたのはリヴァイだった。人類最強と謳われた彼は、ひどく気が短い。三白眼をさらに鋭く尖らせて、ぶっきらぼうに告げた。
「くれてやる」
　ぐいと顔が近づく。朱がはしるエレンの顔に、リヴァイの吐息がかかるほど二人の距離は縮まる。
　リヴァイはエレンの手をとる。そして己の胸の上にまっすぐ押し当てた。
「……へい、ちょ……」
　戸惑うように声を枯らすエレンに構わず、リヴァイはゆっくりと顔を傾けた。両目はエレンをとらえたまま、指先ひとつ分の距離だけをあけて唇を寄せて、告白した。
「無事に戻ってきたら―」
　エレンは目を丸くする。何を言われたか一瞬わからなかった。それは決して、手に入れられないものだと思っていたから。
　告白を終えて、リヴァイはさらに続けた。―だから、必ず戻ってこい、と。
　はいと頷くエレンの声は音を作らなかった。一気に距離を詰めるリヴァイの唇。エレンは目を閉じる。空気が甘く動いた。下からすくいとられるようにして唇を重ねる。
　ふたりぼっちのキスは、死ぬほど甘かった。